パフィオペディルムの交配と無菌播種

この原稿は、昭和63年に出版された図解ランのバイオ技術(誠文堂新光社)に掲載された私の原稿をもとにして編集されたものです。

はじめに

 パフィオペディルム(Pahiopedilum)の種子はいくら播いても発がしない、あるいはたとえ発芽してもその数が非常に少ないなどの経験から、パフィペディルムの無菌播種は洋ランの中でも最も難しいものの一つとされている。
 発芽しにくい理由は、種子の完熟にともない発芽抑制物質が膜に沈着するためとされ、これを回避する方法として未熟の種子を播くことが推奨されている。しかし、確かに一部原種の完熟種子では抑制物質による明白な発芽抑制が示されているが、筆者の経験では必ずしもすべての品種につて顕著な抑制効果が現れるものではないと思われる。たとえば、整形交配種においては未熟よりも完熟種子の方がはるかに多くの苗を得ることができる。一方、子房内の種子を顕微鏡で観察すると、成熟胚をもつ種子が未成熟の種子に比べていかに少ないかがわかる(写真1)。この結果は必然的に、パフィオペディルムの苗は多く採れないと言う結論を導く。パフィオペディルムの播種における問題点は発芽率が低い(発芽できる種子が少ない)ことだけであり、発芽さえすれば後は他の属と同様に順調な生育を示す。
 さらに、苗の発芽率の差異は必ずしも播種のテクニックによるものではなく、基本的に交配そのものの結果による場合が多いと思われる。すなわち、原種のセルフクロス(自家交配)、シブリングクロス(同胞交配、同一品種間で別個体を用いた交配)、原種交配(異なった原種同士の交配)などでは比較的発芽率がよく、一方、原種交配品種を用いた特殊交配では発芽率の低いものが多い。特に原種交配品種の中には稔性の低いものが多い。これらの結果は、交配と播種を自らの手で実際に試みれば、よく理解されるものと思う。

目   次

はじめに

1.交配のねらい

2.花の構造と交配の方法

3.成熟期間

4.無菌播種

1)準備するもの   2)培地の準備

3)無菌播種

 (A)未熟種子(未開裂種子)の播種

 (B)完熟(開裂)種子の播種

4)培養

5.栄養培地への移植
1)準備するもの  2)移植の方法  3)培養条件

6.フラスコから苗を出す方法と小苗の育て方。
これについては、専門に解説した別のサイトがありますので参照して下さい。

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< ニュース> 紙素材を用いたカンベン播種

1.交配のねらいにつづく