4.フラスコの培養

培養温度は25℃を保つことが理想であるが、特殊な設備を整えた研究室でないと困難である。一般家庭では、室温が20〜30℃におさまるように心がける。太陽光を利用する場合には、カーテンあるいは遮光材を利用して太陽光が直接当たらないように工夫して温度調節をはかる。人工光(1000〜1500lx)を用いる場合には、温度調節が容易である。暗黒条件下で発芽させる方法もあるが、一般的には照射時間を14〜16時間くらいにするのが適当である。
種子の発芽は交配により異なるが、早いものでは2週間もすれば白色のプロトコームが肉眼で見えてくる。しかし、遅い場合には半年から1年くらいしてポツポツと見えてくる場合があるので、決っして諦めずに気長に待つようにする。カビあるいは細菌類の混入があると、早いときには数日、遅くとも2週間以内には肉眼で見えるようになる。この場合、あまり侵されていない部分の種子を回収し、開裂種子の滅菌の要領で再度消毒すれば、種子を助けられることがある。発芽率がよい種子の場合には、プロトコームが層状になって育つ。このような場合には、プロトコームから生長した葉が緑色を帯びてきた時期を見はからい、粉絵を同じ培地に散らしながら植え替えるとよい。方法は次章の栄養培地への植え替えを参照するとよい。苗の葉の差し渡し(リーフスパン)が1cmくらいになったら、栄養培地に植え替える。このころ苗は根を伸ばし始め、その長さは5〜10mmくらいになっているだろう。発芽してから3〜6ケ月を経過している。

5.栄養培地への移植

1)準備するもの   

栄養培地(表c)、白金耳、(無菌シャーレ)

2)移植の方法

(1)まず苗フラスコ(マザーフラスコ)および栄養培地フラスコの口をゴム栓とともに火炎でよく焼き、冷えるのを待ってゴム栓を緩める。
(2)次に、図のように先を曲げた白金耳を、特にフラスコの中に入る部分まで十分に(赤くなるまで)火炎で焼いて消毒する。白金耳が冷えるのを待ち(培地の寒天に突っ込んで冷やしてもよい)、小苗をマザーフラスコから栄養培地に移す。マザーフラスコの苗をすべて無菌シャーレに移してから栄養培地に移植してもよい。多くの場合、再移植をする必要がないので、この移植を最終移植のつもりでフラスコあたりの苗の数(300mlフラスコには10〜15本、500mlフラスコには20〜30本)を制限し、規則正しく植え付けるようにする。

3)培養条件

培養温度は20〜25℃を維持する。基本的には、播種フラスコと同じ環境でよい。苗の生育には、培地の成分以上に苗(フラスコ)の環境条件が大きな要因を占める。生育が不調なときには、まず日照や温度などの環境条件を確認する。夜になるとフラスコの中が水滴で白く曇るような状態は好ましくない。苗のリーフスパンが4〜5cmになったら苗出しを行う。発芽してから1年〜1年半を経過しているのが普通である。

6.フラスコから苗を出す方法と小苗の育て方

これについては、専門に解説した別のサイトがありますので参照して下さい。

< ニュース> 紙素材を用いたカンベン播種

群馬県在住の原 幸康さんによる報告を紹介しましょう。原さんはソフロニチス・コクシネアをはじめとする小型カトレヤではよく知られた方ですが、パフィオペディルムにも造詣の深い方です。また実は、ウチョウランなどの日本の野生ランも栽培しておられます。彼は以前より、日本の野生ランが鹿沼土を主体とするコンポストに刻んだダンボールを混ぜると生育がよいと話されておりました。そして、最近では、ウチョウランの播種に厚さ数センチの鹿沼土や焼き赤玉土を混ぜた通常のコンポストの下に刻んだダンボールを入れたものを用いると、ウチョウランは順調に発芽して生育することを見せてくれました。そしてこの度は、ダンボールではなく紙素材(ハードボード)でできた市販の鉢を用いても、上記同様発芽するばかりでなく、パフィオペディルムの播種にも有効であることを示してくれました。同氏は、特に力を入れて調べているわけではなく、お遊びで試みてみただけと言われますが、とても興味深いことで、ここに紹介いたします。どなたか、同様の試みをされたことがある方は、お知らせ下さい。

 紙素材の鉢にウチョウランと同じコンポスト(鹿沼石+焼き赤玉土)をいれ、自分で交配したMagic Lantern を播種した。ご覧の通り、発芽した小苗は順調に生育している。 

 同様の方法は、本来ウチョウランで成功している手技であるという。ご覧のように、ウチョウランも問題なく発芽し、生育、そして、花を着けるに至っている。

この方法は、基本的にはコンポストにダンボールなどの紙素材を加えることにより、ウチョウランの栽培がとても容易に、また、安全かつ順調な生育が確認されていることから始まった。上記に発芽と育成には、ダンボールではなく、紙素材の鉢を用いただけとなった。このような成功は、さまざまな機材や技術を持たない一般趣味家には、とても嬉しく、興味ある報告と言えよう。
ちなみに、原さんはカトレヤでも試したところ、発芽しなかったそうである。パフィオも発芽することを全く期待していなかったそうで、思わぬ結果が出て本人も驚いている。

フラスコから苗を出す方法と小苗の育て方につづく

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