パフィオペディルムのフラスコ出しと、小苗の育て方

フラスコから苗を出す方法

はじめに

 最近、パフィオペディルムの人気が上昇してきたようで、それに伴って新しい愛好家が多くなってきたことは嬉しいことである。最近では、色彩や形が今までに見ないユニークな、パービセパルム(亞属)などの新しい品種が中国で発見されてから、原種ばかりでなく、これらの品種を用いた、新しい交配が盛んに行われるようになってきた。我々愛好家には嬉しい限りである。少し前までは、蘭の専門業者に行っても交配苗はそれほど多くなかったが、最近では、販売の主力となっている。なぜなら、パフィオペディルムの交配は、ほんの限られた業者や愛好家によってのみなされていたからだ。しかし最近では、愛好家は、有名な選別個体を追い求めるばかりでなく、未開花の面白い交配の苗を競って求めるようになった。交配についての知識が普及してきたのもその理由であろうが、交配そのものが決して難しいものではないことも解ってきたようで、バテランばかりでなく初心者でも自ら交配を試みておられるようである。また最近では、コストや苗の選別の面で、できるだけ小さな苗をたくさん入手する方が増えてきた。フラスコ苗の購入もその一つである。しかし、小苗のフラスコ出しや育成には、ちょっとしたコツがいるようで、失敗する人も多い。しかし、パフィオペディルムの愛好家の立場から将来を考えると、このような小苗の育成を行うかどうか、そしてそれに成功するかどうかが、その人の愛好家として大きく成長するステップとなることには間違いない。私は、多くの方が、小苗を容易に育て、それぞれオリジナルの素晴らしい花を所有することを期待している。
 ここに、パフィオペディルムのフラスコ出しや小苗の育成についての方法を紹介する。パフィオペディルムの栽培編でも述べたように、栽培は原則的に栽培者本人の性格に基づく方法と、栽培場所の環境に強く依存する。従って、ここで述べた方法が、唯一の方法であるはずがなく、愛好家が独自の方法をとられるのよいであろう。しかし、初めての方や、どうも失敗ばかりでうまく行かない方に、ここで紹介した内容を参照して頂きたい。そして、苦手な問題を征服することにより、パフィオペディルムの愛好家として、大きな一歩を進めて頂きたい次第である。

フラスコ苗について

 交配の善し悪しではなく、フラスコ苗の善し悪しがある。当然、我々には良い状態のフラスコ苗を入手することが望ましい。初心者を含めた一般の愛好家には、基本的に苗が充分に大きく育っているものがよい。大きなフラスコの中に、2〜3cmの小さな苗が詰まっているようなフラスコは、できるならば避けた方がよい。苗は、小さければ小さいほど、フラスコから出した後の生育に難がある。一方、時には、フラスコから出した苗が大きく育っているので、いきなり単鉢に植えることができるようなものがある。このようなフラスコを求めるのが理想といえよう。コストがやや高くなるかも知れないが、フラスコの中に苗がぎっしりと詰まっているものより、ゆとりをもって少しの苗が植えられている方がよい。このような苗は充分な光を浴びて、健全に育っていると考えられるからだ。また、フラスコ苗の色つやは、交配の種類にもよるが、光を充分に浴びて、緑色の葉が美しく、いかにも元気そうな苗を選ぶことである。フラスコの生産業者は、苗をフラスコの中で作ることだけが仕事ではない。このような仕事は今の時代にあっては素人でもできるのである。実は、最終植えのフラスコ苗を、太陽の光を調節しながら、いかに健康に大きく育てることが最も重大な仕事といえる。このような条件を満たしたフラスコ苗は、少々の手違いを犯しても、順調に生育するだろう。即ち、趣味家にとって、フラスコ出しを上手くする第一歩は、フラスコ苗の選択から始まっていると言っても過言ではない。

1)苗出しの方法と注意

 苗出しを行うときに最も大切なことは、苗の葉や根をできるだけ傷めないようにすることである。フラスコを強く振ってカンテンを緩め、サジや棒で取り出す方法もあるが、根や葉を痛める可能性が高く、初心者には危険な行為といえる。そこで、初心者には、フラスコを割って苗を取り出す方法が最も安全な方法といえよう。以下に、苗をフラスコから出す、初心者には最も安全で成功率の高い方法を紹介することにしよう。
(1)苗出しをする数日(少なくとも2・3日)前にフラスコのフタを取り、やや遮光の強い(60〜70%)場所に放置する。よいフラスコ苗は、フラスコの中で大きく元気に育っている。

フラスコの中に入っている苗は、高い湿度などの特殊な環境で生育したものであるから、苗をフラスコから出す前に温室の平常な環境(外気)に慣らせるためである。長期間おいてもよいが、カンテンにカビが生えるまでには出したい。

 
(2)水(水道水でもよい)をフラスコいっぱいまで入れ、厚手のビニール袋でカバーし、ビニール袋の上からフラスコの下部縁を金鎚で叩いてフラスコを割る。フラスコをビニール袋の中に入れると、割れたガラスがビニール袋に収まるので安全である。安全のため、軍手の着用をお勧めする。

フラスコいっぱいまで水を入れる。 ビニール袋の中で、フラスコの下部縁を金鎚で叩いて割る。
(3)ガラスの破片を残さないように取り除き、カンテンごと苗を取り出す。

(4)根に付着したカンテンを水で洗い流す。

 水道の蛇口にホースを取り付け、ホースの先を押さえつけて水を勢い良く飛ばすと、カンテンを容易に取り除くことができる。この時、根を傷めないように最深の注意を払う。カンテンが完全に取れない場合があるが、経験的には何等問題はない。苗を出すのが遅れて、カンテンの上にカビがびっしりと生えたこともあるが、このような場合でも、正常に移植したものと比較して、ほとんど生育に差が見られなかった。
カンテンを全く落とさないで、そのまま植え込む方法もある。この場合には、無くなっていくカンテンに応じて、時折、コンポストを上から加える必要がある。

(5)絡み合った根が容易に外れるようなら、苗を1本づつに分ける。心を静め、根を注意深く丹念に外す。苗を1本づつに分けるのが困難な場合、決して無理をせず、全体をまとめてCP(コミュニティー・ポット)にするとよい。

絡み合った根をほぐし、苗を1本づつに分ける。 根がほぐせないときには、全体をまとめて植える。

(6)1本づつにした小苗、あるいは、根が分けられなくて一まとまりになったままの苗を、立ち枯れ病などを防ぐために、規定どおりに希釈(500〜1000倍)したヒドロキシイソキザール(タチガレンなど)やキャプタン剤(オーソサイドなど)に10〜30秒ほど浸す。展着剤を加えることを、忘れないように。

 苗を篭やプラスチックの鉢に入れ、篭(鉢)ごと消毒薬に浸けて消毒すると便利。

(7)薬剤から取り出した小苗を乾かす。4・5分くらい。

2)小苗をコミュニティーポットに植えるにつづく