第13回パフィオサロン in ろまんちっく村

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テーマphilippinenseのまとめと栽培

テーマ 『philippinense』のまとめ
1. philippinenseの歴史と分布(変種を含む)
 1862年H.G.Reichenbach(ライヘンバッハ)により記載された。記載に使用されたオリジナル標本はパラワン島産のものである。フィリピン諸島を中心にボルネオ島(北東部)まで幅広く分布し、(ただし情報が無く、全く不詳)変種としてroebeliniiとlaevigatumとが知られている。roebeliniiは1883年にReichenbachにより、laevigatumは1865年にJamesBatemanにより記載された。ただしroebeliniiについては、記載の時から情報量が少ないため明確な産地は不明である。
2. philippinenseの変種とその判別方法
 結論として、philippinenseとして扱おうがphilippinense var. roebeliniiとして扱おうがどちらでも良い。RHSの登録上はphilippinenseであるからである。ただ趣味家と言うかマニアは変種(variety)とか変異株(forma)と言う話が大好きであり、roebeliniiやlaevigatumという表記は消そうと思えばいつでも消せるのでわざわざ消す必要がないと言える。究極的にはその違いを議論し観察し楽しめれば良いのである。
次に判別であるが、まず変種であるroebeliniiとlaevigatumをphilippinenseと'明確に'分類(判別)する手だてがないことを知る必要がある。変種との判別の根拠を記載に求めるならなおさらである。なぜなら記載に使われたものは広く帯のように分布するなかで'あるスポット'から取ってこられたものが対象になり、必ずしもそれがその種のtypical(典型的な普通種)なものとは言えないからである。ただその記載が間違っていると言うような議論は意味も必要もなく、少なくとも記載上ではこうでしたよ、という認識で良いと思う。
ただし明確に分類することが難しいとはいえ、変種と言うからにはやはりどこかが違うわけで、一般的には見た目が異なることになると言える。それでは'明確に分けることが難しい'と言う点を踏まえてphilippinenseとその変種との違いを、変種であるroebeliniiとlaevigatumの特徴を挙げることによりまとめたいと思う。

 2.1 結論
 結論から言うと、
@ philippinenseとroebeliniiを明確に判別することは難しいが、今のphilippinenseはほとんどroebeliniiの可能性が高くphilippinenseは意外と少ないと思われる。
A form.albumやaureumもほとんどroebeliniiの可能性が高い。
B philippinenseの特徴・・・ペタルが濃い紫紅色で長くねじれる。子房がすっきりと細い。
C roebeliniiの特徴・・・ペタルが比較的ねじれずやや角度を持って垂れるものが多い。子房がふくらみを持って、細毛が認められる。葉が肉厚で幅広い。
D laevigatumの特徴・・・葉が小型(15cmほど)で細い。ペタルが比較的横に張るタイプがほとんどである。
それでは詳細を見ていくことにする。

 2・2 roebeliniiの特徴(1883年Reichenbachにより記載)
@ ペタル・・・roebeliniiのペタルは中央が黄色(Goldenyellow)に抜けたものが多く、philippinenseのように捻れて長く垂れるものもあるが比較的捻れず、やや角度を持って垂れるものが多い。それに対してphilippinenseのペタルは紫紅色(Reddishpurple)で捻れて長く垂れる。ただしroebeliniiの中にもphilippinenseに酷似した紫紅色が見られることがあるのですっきりと分けることは難しい。
A 子房・・・roebeliniiの子房の下部はふくらみを持ち、多くは細毛を有する。この判別方法で会員が持参したphilippinenseを観察したところ多くがroebeliniiである。このことから本物のphilippinenseは少ないと言えるかもしれない。また記録されている写真から、ちまたで見られるphilippinense forma albumやaureumの多くは子房にふくらみを持つのでroebeliniiの可能性が極めて高いことが解った。
B スタミノード・・・スタミノードの下部の突起がphilippinenseに比べると尖っていて、上部にボツボツがある。ただスタミノードが小さいので肉眼で判別するのは難しい。
C 葉・・・肉厚で幅が広く、葉の淵に白い(っぽい)線が入る。ただしphilippinenseでも見ることができることがある。
D 分布・・・明らかではない。(ただしある本ではルソン島のみ知られているとある。)

 2・3 laevigatumの特徴(1865年James Batemanにより記載)
@ 葉・・・小型で幅が狭い。葉の長さは15cm程度できわめて小さな株である。
A ペタル・・・長さ10cmに満たないくらい短く横に張るタイプがほとんど。
B スタミノード・・・不明(話題に挙がらなかった)
C 子房・・・話にはあがらなかったがroebeleniiに類似すると思われる。
D 分布・・・明らかではない。
E 花と花との間隔・・・狭い、詰まっている。

 上記から判断すると、philippinenseとroebeliniiとを判別するには'花'と'子房'を、laevigatumとを判別するには'葉'と'ペタル'を見ることが有効であるといえる。
3. philippinenseを使った交配結果
  philippinenseを使った交配を考える場合、交配相手を亜属ごとに分けて考察することが重要である。なぜなら亜属ごとに遺伝する力がほとんど決まっているので交配結果を予想できるからである。また新しい交配種が出てきても平均的なものを予想できるからでもある。それでは亜属ごとに交配結果を見ていくが、その前に結論として、『特別な目的がない限りPolyanthaらしい花が欲しい場合Polyanthaから離れるべきではない』といえる。なぜなら6亜属中一番遺伝力が弱いPolyantha亜属にその他の亜属を交配すると、Polyanthaの特徴はほとんど消えてしまうからである。Polyanthaの特徴が一番出るのは交配相手もPolyantha亜属の場合だけである。ただし例外としてadductumsanderianumはどの亜属と交配してもその特徴がよくでることはいつも述べているとおりである。

 
3・1 philippinense×Parviseparum亜属

Michael Tibbs philippinense x armeniacum
Delphi philippinense x delenatii
Not Registered philippinense x emersonii
Wossner Philimal philippinense x malipoense
Grassauer Alice philippinense x micranthum

 交配相手を遺伝力が一番強いParvisepalum亜属とした場合、花形・色彩ともにParvisepalumに強く依存する。花形についてはPolyantha亜属×Parvisepalum亜属というのは基本的に同じであり親により多少味付けが変わるだけなのでrothschildianum×Parvisepalum亜属に置きかえてみると分かり易い。つまり交配相手をarmeniacumにした場合(Michael Tibbs)はDollgoldiそっくりであり、delenatiiなら(DelphiDelrosiとそっくりになる。ペタルが垂れ下がるphilippinenseでもペタルが横にピンと張ったロスでもその他のPolyantha亜属を使っても結果はほとんど変らない。それほどにPolyantha亜属というのは遺伝の力が弱いのである。
 色彩についてはPolyantha亜属はほとんどすべての色を持っているので、交配相手の持つ色彩により花色が決定される。つまりarmeniacumならその共通色である黄色が強調され濃い黄色になり、delenatiiなら上品なピンク、emersoniiなら薄いピンク、malipoenseなら黄(茶)緑(微妙な色)、micranthumなら濃いピンク(グロテスクな)となる。


3・2 philippinense×Brachypetalum亜属

Not Registered? philippinense x ang-thong(Greyi)
Phoebe philippinense x bellatulum
In-Charm Doll philippinense x Conco-bellatulum
Conestoga philippinense x concolor
Jennifer Stage philippinense x godefroyae(leucochilum)
Vipanii philippinense x niveum

パービに次いで遺伝力の強いBrachypetalum亜属を相手にした場合、花形・色彩ともにBrachypetalumに強く依存する。花形についてはPolyantha亜属×Brachypetalum亜属であれば基本的な形は同じであり、見る機会の多いrothschildianumとの交配をイメージすると分かり易い。過去のサロンにおいてもVipaniiphilippinense×niveum)やConestogaphilippinense×concolor)が出品された。色彩についても相手であるBrachypetalumの色がより強調された結果になる。


 3.3 philippinense×Polyantha亜属

Addicted Phillip philippinense x adductum
Lebaudyanum philippinense x haynaldianum
Temptation philippinense x kolopakingii
Berenice philippinense x lowii
Umatilla philippinense x parishii
Deena Nicol philippinense x praestans
Memoria Michael Lawless philippinense x randsii
St.Swithin philippinense x rothschildianum
Micael Koopowitz philippinense x sanderianum
Mount Toro philippinense x stonei

 亜属中遺伝力の一番弱い同士であるPolyantha亜属×Polyantha亜属ではお互いの特徴が良くでるPolyanthaらしい花になる。その中でphilippinenseというのはやはりペタルが長く垂れ下がることが一番の特徴であるから、交配するときにはまずphilippinenseの良い個体=ペタル長が25cmほどの個体を用意することが重要である。そして交配相手には雄大さという点ではrothschildianumを、ペタルの長さを求めるならsanderianumが最適である。特にrothschildianumとの交配であるSt.Swithinは銘交配と言われるだけあってすばらしい花を咲かせている。その他のPolyantha亜属との交配結果についてもスライドで紹介されlowiidianthumとの交配に色彩の変化が見られたが、花形・色彩ともにほとんど中間的な花である。ただし例外的なものもありhaynaldianumとの交配(Lebaudyanum)ではhaynaldianumが強く出ていたし、adductumとの交配(Addicted Phillip)はadductumそっくりの結果になっていた。

St.Swithinを使った交配》
 今回のサロンではSt.Swithinを使った交配結果についてもスライドを用いて詳細が説明された。St.Swithinを使った交配というのは意外に多くスライドが豊富にあったが結論からしてphilippinenseの時とあまり変わりがなかった。


 3.4 philippinense×Cochlopetalum亜属

Helvetia philippinense x chamberlainianum
Shireen philippinense x glaucophyllum(moquetteanum)
Jolly Holiday philippinense x liemianum
Honey philippinense x primulinum
Not Registered philippinense x victoria-mariae
Not Registered philippinense x victoria-regina

Parvisepalum亜属、Brachypetalum亜属についで影響力の強いCochlopetalum亜属を交配相手にした場合、花形・色彩ともにCochlopetalumの特徴が良く出る。基本的な花形(雰囲気)はTransvaalrothschildianum×chamberlainianum)でありphilippinenseを使えば多少ペタルが斜めになるくらいである。色彩については交配相手であるCochlopetalumに依存し、glaucophyllum等ではより濃い色に、moquetteanumprimulinumを使うと黄色味が強くなる。応用編ということでTransvaal×philippinenseの話が出たが進歩のないというか、Transvaalというすばらしい花にphilippinenseをかけたものは何を目的としてるかわからないということであった。(Transvaalrothschildianumをもう1回かけるとLebeauになるがこれはrothschildianumが2回かかっているので迫力のある大きい花になる。)またDelophyllumdelenatii×glaucophyllum×philippinenseという交配ではペタルが長く垂れ下がらないですよ、という確認の話があった。


  3.5 philippinense×Paphiopedilum亜属
 交配相手に
Paphiopedilum亜属を使うことはあまりなく資料となる写真がphilippinense×hirsutissimumだけであった。そもそもPolyantha亜属×Paphiopedilum亜属の交配もほとんど見かけないので良い花が少ないようである。


  3.6 philippinense×Sigmatopetalum亜属
 同様に
Sigmatopetalum亜属との交配も少なくphilippinense×barbatumのみが紹介された。花形・色彩ともにbarbatumの影響が強くペタルがねじれて少し垂れるくらいであった。Polyantha亜属×Sigmatopetalum亜属とで考えてみてもIantha Stagerothschildianum×sukhakulii)くらいしかみないので良花が少ないと思われる。

4. philippinenseの栽培方法
 特に難しいものではないし、これを栽培の中心にして管理している会員はいないと思うのでPolyantha属に共通した管理、栽培で良いとのことであった。

 ・株保有会員: 80%以上の高い保有率である。
 ・栽培最低温度: 20℃以上が望ましいが、18℃以上でも十分である。会員の中には15℃以下も2人ほどいた。
 ・遮光: 夏50%、冬30%程度。
 ・風: Polyantha属は特に風通しを良くする。
 ・水: Polyantha属共通に準じて良い。
 ・肥料: Polyantha属共通に準じて良い。
 ・コンポスト: ほとんどがミックスコンポストを使用している。クリプトは4人、バークは1人いた。クリプトにミズゴケを10%ほど混ぜるとコンポストが長持ちする。とか、バークは3年も持ち、大株にするにも良いとの話もあった。
 ・病気: 腐敗(軟腐)病が主であるが、カイガラムシなどにより葉に傷がつき菌が入ることが考えられるので、薬剤の散布は殺虫剤を優先的に使用したほうが良いとのことである。



展示されたものの中からテーマに関したものを集めてみました。
roebelinii
出品者 : 田中 利典
ドーサルが波打つところもありますがこれはroebeliniiです。
philippinense
出品者 : 岩坂 達夫
この個体はどちらなのか確認できませんでしたが、どちらにしてもいい個体です。
philippinense
出品者 : 岩坂 達夫
上と同じ実生株と思われますが、ドーサルの状態が異なっています。上と共にroebeliniiのような感じですが・・・。
roebelinii
出品者 : 亀井 隆
philippinenseのラベルで育ててきましたが、話を聞いていくうちに分類的にはroebeliniiであることがわかりました。ペタルのねじれは抜群です。花は小さめです。
Woody Bird
(William Mathews x philippinense)
出品者 : 亀井 隆
シグマトペタラムとポリアンサの原種交配と同様、philippinenseの影は薄く、mastersianumの形と色彩が強く現れた結果となりました。望月蘭園の交配、命名の花です。
Ken Ichi Takaya
(supardii x philippinense)
出品者 : 亀井 隆
philippinenseの面影が強く残った花です。ペタルが幅広く、独特のウェーブを描くのはsupardiiの影響でしょう。観賞価値のある花になっています。
Saint Isabel
(Lady Isabel x Saint Swithin)
出品者 : 斉藤 正博
ポリアンサ系プライマリー同士の交配で、各原種の特徴が消えかけています。ポ−チの色はphilippinenseから遺伝したものでしょう。ロスの血が半分入っているだけに、花も大きく実に見ごたえのあるものになっています。


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