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立派な花をさかせるには!
(問)
全蘭の例会には、毎月たくさんの素晴らしい花が出品されますが、どのように育てればあのような立派な花を咲かせられるのでしょうか?
(答)
立派な花を咲かせる方法とのことですが、あまりにも難しいご質問ですので、とても返答に困りました。ですが、基本に返ってお話させて頂きますと、(誰もが口にすることですが)「まずは株を満作にすること」だと思います。貧弱な株では着花数も少なく、とても立派な花は咲きませんから。
では、株を満作にするにはどうしたら良いのでしょうか・・・。
結論から先に申しますと、私は「環境をベストに揃えての水遣り一つ」で決まるものだと思っています。
蘭を栽培する際の環境(光・風・温度・湿度など)は、一度セットしておけば数ヶ月はそのままでOKですから。
ちなみに、カトレヤの生長を例にとって説明さでていただきますと、
まず一般の植物(C3・C4植物)は昼間、光合成(水と二酸化炭素を光によって反応させて糖を合成すること)によりに必要な栄養を確保していますが、これに対して、CAM植物であるカトレヤは夜間、二酸化炭素を吸収し、オキザロ酢酸と化合してリンゴ酸として細胞に貯蔵し、昼間そのリンゴ酸をまた二酸化炭素とピルビン酸に分解して、ベントース回路で光エネルギーをATP・NADPHに変換して糖を合成しています。(何が何やら・・・学者に言わせるとこんな感じになりますが、ちょっと難しいですね!)
つまり生長期の、この糖の合成=乾物の生成(新芽や根の植物体を作ること)が最大になる様にしてあげる事が、満作に結びつく事だと思われます。
では、生長期にその光合成量を最大にするには、どうすれば良いのかとい申しますと、私は次のように考えております。
1.なるべく多くの水分・養分を吸収出来る植物体にする事
カトレヤが養水分を吸収する部分は、ほとんどが根と葉の裏の気孔からです。CAM植物であるカトレヤは、主に夜間、葉の裏の気孔を開放しますので、理論上は夜間の潅水がベストです。また、根から多くの水分を吸収しますので、根の絶対量が多い方が有利となります。この事から、休眠期から生長初期段階の時期に、あまり水遣りを多くせず、根を長く伸ばさせておく事が重要となってきます。
2.光合成に必要な二酸化炭素の供給については、10数年前に、夜間二酸化炭素をボンベより供給して栽培した事が話題になりましたが、植物体自体も呼吸により二酸化炭素を排出しており、空気中にも存する事、また二酸化炭素の消費量もそれ程多くないため、現在では、わざわざ二酸化炭素を供給する事は行われていない様です。自生地での事を思い浮かべれば当然の事でしょうか。
3.光量については、適度な光である事。
カトレヤの葉に、色が変わるほどの強光を当てても光合成量は最大とはならず、むしろ低下します。また、CAM植物の光合成の反応速度は、C3植物と比べて非常に遅いので、なるべく長時間、陽に当ててあげる事が光合成量を最大にするのに有効となります。従って、日当たりが悪い条件で栽培されている方は、この点はどうしても不利となりますね。(一部の品種で、花芽を分化させるため又は花つきを良くするために強光に当てる事が行われていますが、これはバルブを満作にするために行われる事とは時期と意味合いが違います)
4.光合成の反応速度・量は、温度と密接な関係があります。昼間はその植物体の光合成量が最大になる温度(20〜28℃位で活性の品種が多いようです)にしてあげる事です。この温度から察すると、東京の夏はカトレヤにとっては暑過ぎで、光合成が高い呼吸速度(夏に犬がハーハーいって元気がなくなるのに似ています)で低下して、生長が鈍るのもうなずけますね。
5.通風については、植物体が呼吸しやすくするため、あるいは夏場の葉面温度を下げるため、夜間二酸化炭素の吸収を高めるためなど、にとても有効です。また、夏場の夜の高温を水の気化熱を利用して、鉢内温度を下げるためには特に有効です。
6.空中湿度については、カトレヤは夜、葉の裏の気孔を開放しますので、特に夜の間の高湿度が有効となります。
7.肥料については、生長期にごく薄いものを数多くやるようにし、何度も申しますがCAM植物であるカトレヤは夜間気孔を開けるので、夜間の葉の裏への肥料の散布がかなり有効となります。
以上のようになろうかとは思いますが、
これらの条件を揃えての、絶妙なタイミングでの水遣り。
水遣りを控え気味にして(極度な水分ストレスは、却って株の生長を阻害させますが)根を十分に張らせれば、養水分の吸収量も格段にアップしますので、(適度な光により)光合成量も最大になります。光合成量が最大になるということは、乾物(根・葉・バルブ)の生産量が最大になる、つまり満作
になるわけです。(言うは簡単、やるは超難題ですって!)
水遣りは、「株を大きくするための水遣り」であって、「株(根)をいじめるための水遣り」ではいけません。葉やバルブ、新芽の状態をよーく観察して、根の伸び具合が想像できるようになっていただければ、と思います。
なお、「蘭の水遣り」については、紙面の関係でまた別の機会にお話させていただきます。 |
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