エビネ栽培のポイント

How to cultivate Japanese Calanthes.

・山本伸一 Shinichi Yamamoto


エビネ(Calanthe)属はアジア一帯、およびアフリカの一部と広く分布しており、生息域も亜高 山帯から熱帯地域と、様々な生育環境に適応している、数種着生種を含む地生ラ ンです。Calanthe rosea例など熱帯産の落葉種(洋ランとしてなじみの深いものだと思います)もありま すが、日本、中国、ヒマラヤなどの温帯モンスーン地域を中心に常緑種が発展し ています。とりわけ日本では数種の基本種を中心に自然交雑が進んだ結果、およ そランの持つ色でエビネにない色はないと言っても過言ではないほどの、多様な 色彩をもつ非常に魅力的なグループを形成しているため、日本はエビネ王国であ るといえます。
さて日本のエビネは大きく分けて@サルメンエビネに代表される亜高山産で夏 に暑がる-群、Aツルランに代表される冬季加温を必要とするグループ、Bヂエ ビネなどに代表される加温を必要としない群、の3つのグループに大別すること が出来ます。
@のグループは平地での栽培はまず不可能と考えて良いでしょう。Aのグルー プは温度の面から言えばノビル系のデンドロビウムなどと同じ様に管理できます 。Bのグループについては、昔は人里近くに豊富に生えていたようなごく当たり 前の植物であったので、簡単に栽培できると考えられがちです。しかし、基本的 な点を間違えると、とたんに機嫌を悪くして、作落ちしたり、病気になったりし てしまいますので、関東近辺でのごく基本的なエビネの鉢栽培のポイントについ て以下簡単に記してみたいと思います。

1.用土・鉢
用土は日向土などの水はけの良い軽石のようなものと硬質赤玉土、桐生砂など 保水性の良いものを好み、栽培環境により混合して使用します。鉢と用土の組み 合わせ、置き場などによって乾き具合が違うため用土の混合割合はケースバイケ ースで考えるようにします。また用土は使用前に節にかけ大きさを整え、水洗い し微塵を抜いて乾燥させておきます。 鉢としては実用上の面や観賞上優れてい るため丹波鉢などが一般的に好まれますが、大きくて深 めの鉢ならばプラ鉢や 素焼きの鉢でも差し支えありません。但し、水はけがよいように鉢穴は大きいも のを選ぶか、自分で鉢穴を広げて使います。

2.植え付け、植えかえ
まず鉢からエビネを抜いてよく古土を洗い流します。それから傷んだ根などを 取り除きます。用土は根を傷めないように植えかえに先立って湿り気を与えてお きます。鉢穴にネットを敷き、鉢底には1/4〜1/3程度ゴロ(径2cm程度)を入れま す。 そこにエビネを根を広げていれ、中粒(5〜8mm程度)の用土を1/3程度入れま す。このとき新芽の伸長方向にスペースをとるように気をつけます。その上に小 粒(3〜5mm程度)又は中粒の用土を鉢上部に2cm程のウォータースベースを残して 入れながら芋(バルブ)の頭が見える程度に植え付けます。最上部にはゴロを並べ ると潅水の時用土が動くことがないのでおすすめします。植え終わったら必ずす ぐに鉢底から出る水が透明になるまで充分に水を与えます。 なおフラスコ出し 苗、バック吹き苗などの幼苗では水切れに極端に弱いのでミズゴケで水もちよく 植えます。 植えかえは3年に1回程度、時期としては新が伸び出す直前、つまり 開花株では、花後に行うのが最も植え痛みが少ないです。ただ夏と冬の一時期を 除いていつでも植え替えることは可能です。

3.置き場・日照 適度な通風があり、ある程度の湿度を保てる半日陰が最適な 環境です。ただあまりに暗すぎると花付きが悪くなるのでそのような場所はさげ た方がいいと思います。遮光率の目安としては梅雨明けから秋のお彼岸の頃まで は75%、それから春のお彼岸の頃までは50%です。ベランダなども日照をうまく遮 り、人工芝を敷くなどして湿度を保てば、非常に通風がよいので案外良い作場と なります。また冬場は乾いた強い風が当たらないように保護します。温度の点で はほとんど気にしなくてすみますが、鉢を出来るだけ凍結させないように気をつ けます。無加温のフレームなどに入れるのも一つの手です。特にニオイエビネ、 コオズ等は 少し寒さに弱いようです。Aのグループは霜の降りる間は温室が5℃ 程度保温できるフレームに取り込んで管理します。その他の季節は屋外で構いま せん。

4.水やり
エビネは非常に水を好むランなので絶対に強い水切れに会わせないようにしま す。また潅水するときは、鉢底から水が流れ出て鉢内の空気が入れ替わるように たっぷり水をやります。しかしながら滞水している状態が長く続かないように気 をつけます。そのため春から秋は1日1回、朝か夕方に潅水します。夏の乾燥が激 しいときは1日2回水をやるようにします。冬場は鉢の表面の用土が乾いたらやる ようにします。風通しの良い作場では毎日潅水が必要になることがあります。意 外に冬の乾燥でエビネを傷めてしまうことがあります。また新芽が展開した時期 は葉の基部を腐らせる恐れがあるため芽に水をためないように気をつけます。

5.肥料 花後から梅雨明け頃までと、9月後半から11月くらいまでの間の成長期 には固形油粕やマグアンプKなどの置き肥を与えます。気温の高い7月後半から9 月前半までは油粕などは腐りやすいので撤去しておきます。エビネは割合肥料を 好むと思いますが、肥料で根を傷めないように気をつけます。液肥の利用も効果 的です。この場合充分に薄めて(5000〜10000倍)潅水代わりに毎日のように与え ると非常に高い効果が期待できます。休眠中(酷暑、酷寒時)は与えない方が賢明 です。

6.増殖方法
株分け、芋(バックバルブ)吹かし、実生が挙げられます。株分け、芋吹かいま 植えかえ時に行います。株分けは大きくなった株を適当な大きさに切り分けます があまり小株に分けない様気をつけます。芋は最低でも1、2個はつけておくよう にします。芋吹かいま植えかえや株分けの時に余った芋を大きいもので2個、小 さいもので3個以上つなげて切り、ビニールやプラスチックポットに芋の頭が見 える程度にミズゴケでくるんで、植え付けます。管理は親株と同じで構いません 。3、4月頃に行うとすぐに新芽が展開することが多く良い時期だといえます。芽 が出た翌年には親株と同じ用土で植え付けます。
実生は自分だけのオリジナルが楽しめるのですが、無菌播種はアマチュアでは 難しいので業者に委託した方がよいでしょう。また、発芽率は良くないですが、 もっと簡便な方法として種子を親株の鉢に播く方法があります。どちらも開花ま でには3〜5年くらいかかりります。

7.病虫害
ウイルス病が一番の大敵です。新芽や花にもやもやとしたモザイク症状や葉に えそができたりします。アブラムシにより媒介されるウイルスが多いので芽だし や花の時期には特に注意して薬剤散布を適宜行うようにします。また鉢底から流 れた水が他の鉢に触れないよう工夫したり、再使用する鉢は必ず煮沸消毒するよ うにします。注意しなければならないのは、株分けの時に使うはさみで、一株ご とに火であぶるなどして絶対にそのまま次の株に使わないようにします。また感 染株は焼却処分又は隔離栽培にします。
その他の病虫害については通常の薬剤散布をすれば十分です。

8.入手方法
病気のない株を入手するために春のエビネの花の時期に展示会や専門店に直接 足を運ぶのがよいと思います。また来春の無病を保証してくれる信頼の置ける業 者から秋から冬の休眠期に通信販売で入手するのも一つの手です。自分で選ぶ場 合は葉に厚みがあり、みずみずしい感じのするものを選びます。


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