全日本蘭協会名誉会長 福 原 義 春
Honorary Chairman of All Japan Orchid Society
Yoshiharu Fukuhara
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写真展「蘭の顔」

 2007年4月27日から5月6日までホテルオークラ東京のオークルームで私の写真展を開いてもらった。
 温室で蘭が開花するごとに写真を撮りためて来たものがかなりの数になった。もともと私の写真はアマチュアの趣味だから唐澤耕司さんのように植物の全体像を写しとることはできない。
 それでも使い馴れたカメラと限られたスペースで、栽培している蘭の開花を家族の記念写真のようなつもりで記録している。私のやり方の特別な点は撮影する直前に温室の蘭を鉢ごと持ってくることにある。切花にすることもなく、開花していちばんいい状態で株のまま撮影ができるわけだ。
 こうして撮りためた写真はこれまでに文化出版局から2回出版して頂いた。「100の蘭」(1991)と「101の蘭」(2004 2刷)である。
 今回のホテルオークラでの写真展開催は「101の蘭」を店頭でご覧になった同社の西村晃営業企画部長が毎年のゴールデンウィークの大催事「10カ国大使夫人のガーデニングin Okura」の折に併催したいと申し込まれたことから出発した。
 会場に予定された2F小宴会場「オークルーム」でどのように写真展ができるか。また何枚の写真を展示できるかなど、さまざまな問題があったが、藤本晴美さんという照明家で演出家でもある友人が自らプロデューサーを引き受けて頂き、空間デザイナー真保毅さんのすばらしい設計で黒一色の空間に54枚の大画面を展示することが決まった。
 更にこの展覧会の実現にはグラフィックデザイナーの仲條正義さんと植草力也さん、カラーサイエンスラボの浜田安勝さん、イマジン・アートプランニングの五嶋哲夫さん、写真家の中村成一さんなど皆さんのまるでボランティアのような情熱と努力と時間を頂いてしまった。秘書室の新海敦子さんにはすべての管理をお願いしたがそれも大仕事になった。
 いずれも藤本晴美さんのプロデューサーとしての力量によるものであったが、関わっていただいた皆さんはこれだけの写真なのでチームの力で歴史に残るような仕事にしたいという思いに結集したのであった。ご覧になった方々から、写真展というより空間を含めた全体が総合芸術のようだと感想を頂いたのは以上のような過程で出来上がったものだ。
 さきほど大画面と云ったが、最大のものは1800×980cmのサイズであり、平均でも大四つ切の二倍のサイズである。私のポジフィルムの多くは35mm判であり、このような大きな画面に耐えるかどうか、またデジタル引き伸ばしのための材料代はどの位かかるかという問題があった。
 幸いに第一の画質の問題はテストを重ねたカラーサイエンスラボの最高の技術もあって何とかクリアすることができた。そして大サイズのプリント用のペーパーはフジフィルム・イメージングからロールを提供頂けることになった。
 展示した蘭の花の写真は丁度いろいろな人の顔の肖像のようにも思えたので、「蘭の顔」展のタイトルにした。期間中、「10カ国大使夫人のガーデニング展」の来訪者の方々にもご覧頂いたので、カウントできた総来観者は8,996人と報告されたが、実際にはオークラの社員の方々をはじめカウント不能な場合もあり、9,000人は十分に超えた人数の方々にご覧頂いた。
 決して広くない会場であったが、来場者の滞留時間はかなり長く、長くご覧になる方は一時間近くも会場内を何回も廻っておられた。
 私の蘭の写真についてはニッコールクラブの季刊の会報199号「花は踊る」(2007新春号)、200号「ハイフニストという生き方」(2007 春号)の2回にわたって寄稿している。また「デジタルフォト」誌2007年5月号のグラビアにも取り上げて頂いた。重複するところもあるが「蘭の顔」展で多くの方々から質問された点を拾ってお答えしよう。

○カメラは何を使っているか?
 いちばん多いのは多年使い馴れたミノルタα7000で、ハッセルブラッドC500による6×6判のポジも若干ある。とくにハッセルブラッドの場合マクロプラナー135ミリレンズの描写力は抜群である。ここにあげたカメラもレンズもすべて製造中止になってしまったが、ミノルタα7000をいまだに使っているのは、このカメラはマニュアルモードでの撮影が容易だからで、今日のフルオート化したカメラは私の目的にはあまり適しないと思っている。レンズは長焦点(短いものでも100ミリ)の方が遠近感、リップとペタルのプロポーションなど、いくつかの点で有利と思う。そのためにはミノルタレンズでない交換レンズメーカーのものに意外に使い易いものがある。勿論マクロレンズが役に立つ世界である。

○フィルムかデジタルか
 写真展に展示した54枚のうち、デジタル撮影のものは1枚だけである(Liparis gibbosa)。カラーサイエンスラボでは当然デジタル処理のインクジェットでプリントするのだが、私の場合にはフィルムベースのポジからの方が大版印画に耐えたようだ。
 最近は同じ蘭をフィルムとデジタル双方で撮影しているものがあるが、今回テストプリントした限りではフィルムからの方が画質よく仕上がった。
 もちろんこれはデジタル撮影を否定するものではなく、あくまでも今日の状況ではフィルムのデータからの方が大画面の仕上がりには有利だということだ。
 格別に大画面を要求するのでなければデジタルとフィルムの仕上がりは差がないどころか、デジタルの方がよいことも当然ある。
 また将来的に更にデジタルカメラが改良されれば、元データの保存性や耐久性などデジタル撮影の方が有利になる可能性がある。なにせフィルムには数十年の歴史があり、今日では改良が頂点に達している。それにひきかえデジタルカメラは広く実用化されてから10年そこそこの歴史しか経ていないのだ。しかしまた今後システムの変革などもあり得るのでそのことも考えておかねばならない。

○なぜ黒バックにこだわるか
 私の「蘭の顔」シリーズの写真の殆どは黒バックである。蘭の顔の色を正確に表現しようとすると色のバックでは色の対比が起こってしまう。たとえば明るいブルーのバックの前ではピンクの花の色も変わって見えてしまう。その対比は人間の視覚によるばかりでなく、印画の際のコンピュータプログラムでも自動的に補正されてしまうおそれがある。そこで白い花なら別だが、赤や紫の花のバックにはニュートラルな白〜グレイ〜黒がもっとも適しているように思う。だから私は黒バックを多用する。そのためには反射のない黒バックを作り、更に余分な光をカットする方法を考えねばならない。それも技術といえば技術かもしれない。
 また黒バックといっても全くの黒なのか、限りなく黒に近いグレイなのか、そのあたりも撮影の呼吸である。

○フラッシュは使うか
 数年前まで、一枚の写真に数個のフラッシュを使って撮影していた。しかしあるとき余りに人工的な方法で撮影をすることに疑問を持った。−花は虫の目に見られるように咲いている。それなら虫の眼はフラッシュで見ているか?−の問いである。現在は自然光の入る縁側で午前中、太陽光と自然光と自製の銀レフレクターで撮影している。そこで花の状況がよくても、忙しい日には撮影できないし、(フラッシュを使えば夜でも撮影ができた)雨の日が何日も続けばタイミングを逸してしまう。
 それでもフラッシュの使用を止めることによって、フラッシュの強い光が肉厚の蘭の花弁の中にまわり込んでしまうことがないので、自然光によって表面の質感が出てみずみずしい描写ができるようになった。
 写真展でなぜ花がこんなにみずみずしく写っているのかという質問が多かった。多分、花が咲いているその場で撮影していることと、フラッシュを使っていないからだと思っている。

○絞りはどの位か
 特別な表現を期待しない限り原則としてレンズの絞りは最小絞り(たとえば22とか32)にして撮っている。それでも近接撮影のため被写界深度は十分な深さではないことが多い。もちろんレンズによっては絞りすぎることによって光の回折を起こすので、そのための注意は必要だ。また1秒とか1/2秒のような長時間露出を必要とするので、窓から入る風や空調機器からの風は厳禁である。Bulbophyllumのいくつかの種類のように、ほんの僅かな微風で揺れる花もあるのだ。

○フィルムは何を使うか
 今日広く入手できるフジとコダックのカラーフィルムは何れも改良の極みにあり、発色の好みで選択すればよい。また両者ともに数タイプが発売されているので、テストして自分の好みに合ったものを択び、その特性を使いこなすことが大切だ。そうすれば被写体と撮影条件によってフィルムを使い分けることもできる。  
 私の経験では、花の色は比較的再現しやすいが、同時に写し込んだ葉の色がなかなか正しく出せないで悩んでいる。これは必ずしも使ったフィルムのタイプのせいではなく、プリントの場合の自動修正プログラムも利いて来るので、自分でプリントしない限りなかなか手の打ちようがないのだ。
 
○タイミング
 ニッコールクラブの会報199号に寄稿した「花は踊る」にも書いたが、蘭の花は長保ちするようだが開花してから毎日のように姿形を変えて行く。そのペストショットのポイントをつかむのは栽培して毎日観察している人だけの持つ感覚であると思う。だから蘭の咲いているところに出会って写してみても、それがその花の撮影に最高のタイミングではないかも知れない。開花してから毎日観察していれば、今朝がチャンスだという日にめぐりあうというものだ。

 「蘭の顔」展をめぐって報告しましたが、どうぞ皆さんも愛培の蘭の写真を残してください。高価な高級カメラでなくてもカメラとレンズを使いこなす馴れと、力一杯に咲いた元気で機嫌のよい蘭の素材が決め手になるのです。
福原義春
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