3) 立枯れ病 (Fusarium Oxysporum)

 あまり多くみられる病気ではありませんが、カビの一種であるフサリウム・オキシスポラムによるものです。病原体は根から侵入し、地上部に殆ど病徴を表すことなく根を完全に侵してしまいます。我々が気が付いたときには殆ど再起不能の状態が多いようです。病徴としては根腐れに似た特徴を示します。即ち根の機能を失った症状です。水を十分にやっているにも拘らず、脱水状態で葉が黄ばんだり、巻いたりして、いかにも不健康そうな状態になります。このような状態で株を鉢から出して観察し、根に異常が認められるが根腐れではないと思われるときは、この病気の疑いがあります。実は、根をよくみると、その症状が明確に現れていることが多いようです。すなわち、患部の根は紫・紫紅色に変色したり、或は同色の条線が入っています。その根を切ってみると、根の内部が紫紅色染まって、組織が破壊されたような状態であることがすぐにわかります。放置しておくと、患部は根からリゾームへと進行します。患部が株の中心部に至ると株の再起は不能になることは言うまでもありません。しかし、先にも述べたように発見が遅れるため手遅れになることが多ようです。患部の進行が全体に広がっておらず、白色(健康)部が残っている場合のみ治療が可能となります。植替え時に根を注意深く観察することが大切です。

フサリウムによる立枯れ病。株は完全に犯され再起不能。

<治療> ナイフで患部を切除します。根の切口を見ながら白色部が出るまで、即ち健康な根の組織が見られるところまで切りとります。切口には薬剤の塗布し、健康な根を含めて、全体の根をよく洗浄して薬剤を噴霧します。水分を根から吸収することが困難になっているので、根腐れの場合と同様に、直射光の当たらない場所におき、乾燥を極力防ぐべく、水を頻繁に噴霧します。根が殆どない場合には根腐れの項を参考にして発根を助長するようにするとよいでしょう。薬剤については後述を参考にして下さい。

4) 根腐病 (Rhizokutonia Solani)

 カビの一種、リゾクトニア・ソラニが感染しておこります。水苔栽培では殆ど見られませんが、ミックスコンポストで栽培している場合、コンポストに混合される木質成分(バークやヤシの実チップ)がこのカビの生育を助長するようで、特に高い湿度で乾燥状態が続くと繁殖しやすいようです。

 カビは根に取り付き、根の回りに白色のクモの巣状の糸状物が付着します。放置すると、根は芯だけが残って死滅します。時にはリゾームに硬い塊状物ができることがあります。根が侵されるため、根腐れや立枯れ病とよく似た根の機能を失った症状が現れます。すなわち、脱水して葉が黄ばんだり巻いたりし、いかにも不健康そうな状態になるわけです。また、進行すると黄ばんできた葉裏には大型の黒斑がでることがあります。葉は下の方から枯れて行き、新しい葉は次第に小さくなります。

<治療> 早期なら治癒は可能です。患部の切除(塊状物の切除)してカビを取り除き、薬剤を塗布します。健康な根もよく洗浄して薬剤を噴霧して下さい。その他治療の方法は立枯れ病に順じます

5)黒色斑点病(リーフ・スポット)(Phyllostictina pyryformis)

 多種の菌類(カビ)により、葉上の黒斑(黒点)病がひきおこされます。進行は遅いのが普通で、局所的な組織を犯すだけにとどまることが多く、株には大きな影響を与えることが少ないようです。しかし放置すると、葉全体に広がりるばかりでなく、他の葉にも感染します。そしてついには株全体が犯され、衰弱した状態で枯死することになります。気が付けば早めに治療することを心がけるようにして下さい。

よく見かけるリーフ・スポット。   放置しておくと取り返しがつかないことになる。
<治療> さほど目だった斑紋が出ていないなら、薬剤を噴霧するだけでよいでしょう。葉に大きく広がっている時には、葉を切り取って薬剤を塗布・噴霧します。この時、たとえきれいに取ってしまって黒斑が見られないようになっても病原体は胞子となって広く散っていると考えられるので、薬剤は念入りに噴霧して下さい。室内が乾燥していると病原体の胞子(非常に丈夫で殺すことが難しい)が残っているので、湿った状態で薬剤を噴霧することが好ましく、1週間おき2〜3度繰り返します。

6)ブラック・ロット( Pythium ultimum and Phytophthora cactorum)

 カトレヤやパフィオペディルムの新芽が突然、濃褐色、あるいは黒色に変化して腐ったようになることがあります。これは、さきに述べたシュードモナス(Pseudomonas)による褐色斑点病か、ここで述べるピシウムやフィトフィトラによるブラック・ロットと考えられます。また、ブラック・ロットはフラスコから出した小苗におこりやすく、ファレノプシスやパフィオペディルムでは頻繁にみられます。時にはまれに、成熟葉でも見られことがあります。進行は比較的速く、組織は軟化せずに茶褐色に変色して死亡します。比較的小さな新芽に現れることが多いので治療は困難で、治療より予防を心がけることが大切と言えるでしょう。

CP苗によく見られるブラック・ロット。伝染力が強い。
<治療> 特に小苗では、フラスコからだしてCPにする直前、あるいは直後に薬剤で処理することをお勧めします。キャプタン剤やヒドロキシメサール剤に、特に高い効果が認められるようです。

7) 灰色カビ病(ボトリチス病)( Botrytis Cinerea )

 ボトリチス・シネレアというカビが感染して起こり、低温で湿度が高いときに起こりやすようです。特にファレノプシスの花によくみられます。ファレノプシスの栽培に比べるとパフィオペディルムは比較的低温で栽培するので、頻繁に起こりそうな病気ですが、意外に少ないようです。おそらく湿度が相対的に低いからと思われます。比較的多湿で栽培していて、暖房器の故障等が原因となって室温が低くなると見られることがあります。まずは余り見られない病気だと思ってよいでしょう。また、この病気は株を致命に導くことはなく、前述の病症とは大きく異なるものです。一旦、発症した病徴を完全にもどす、すなわち、美しい花の状態に戻すことは不可能ですが、感染を食い止めることは容易です。

 まず、花弁に黒い染みのような斑点ができ、放置しておくと次第に大きくなって直径が1mmを越えるほどになります。このくらい大きくなると斑点が明確に観察でき、その色は黒色ではなく少し褐色を帯びた濃灰色であることが解ります。ときにはピンクの輪郭が見られることもあります。花に斑点が散在するので、花の観賞価値は低下しますが、たとえ放置していても株にダメージを与えることはありません。

<治療> 特にベノミール剤がよいとされています。先にも述べたように、感染部を完全にもとにもどすことはできませんが、他への感染を抑えることはできます。

(C)ウイルスによる病症

 パフィオペディルムにはウイルスは感染しないとよく言われてきました。確かにシンビジュームやカトレアのように顕著な病徴は少ないようですが、明らかにパフィオペディルムにもウイルスは感染しています。A.O.S.の病虫害に関する専門家、ロバート・グリースバッハ博士によれば、洋ランで見られるほとんどすべてのウイルスがパフィオペディルムでも検出されているといいます。パフィオペディルムのウイルスを専門に扱っている研究者がほとんどいませんので、詳細な報告は少ないようですが、前述のような神話は信じないようにして下さい。

 病徴の一つとしては、細胞の壊死を伴う黄褐色から濃茶褐色の細点が、葉脈に沿って、あるいは乱雑に散って現れます。一般に、ウイルスは花に奇形やモザイク(カラー・ブレーク)をもたらすことが多いようですが、花への障害は出にくいようです。従って、病徴からウイルスに感染しているかどうかを判断するのは容易ではありません。

ウイルスが感染した葉

<治療> 感染した株からウイルスを浄化する方法はないと考えて下さい。薬剤処理や高温処理によって植物に感染したウイルスを不活化するのに成功した例(野菜類)はありますが、我々にとっては非現実的な方法です。そこで健全な株がウイルスに感染しないように予防をするのが最善の方法です。株分けや花茎を切るのに用いるナイフやハサミを第三ソーダにつけたりアルコールにつけて火炎消毒するようにしましょう。次にウイルスを運搬している可能性のある害虫(ダニやカイガラムシ)を撲滅することです。パフィオペディルムでは、証明はされていませんが、花にウイルスによる影響を受けにくいのでカトレアやシンビジュームのように焼き捨てたり地中に埋めるなどの処分は必ずしも必要だとは思いませんが、他の株への感染を防ぐためにも害虫の予防はぜひとも必要な手段となります。



害虫による障害・生理的障害につづく

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