皆さんによる意見・希望・質問コーナー(3)

質問  奥田篤志さん (北海道)

ニビウムとアントンについて、一つの識別点として確かめたいことがあります。ニビウムのリップの開口部は、横から見た場合デレナティーなどパービセパルムのリップの形状に似ていて、アントンやゴデのように一段高くなりパイプ型になっていないと思うのですが・・・。私は本物のニビウムについてあまり多くの個体を見ていないため何ともいえません。また、ニビウムのスタミノードはアントンからみると丸く大きい傾向があると思います。このことについてご存じでしたら教えてください。
 これは、とても難しい問題です。まず、確かに多くの場合、リップやスタミノードの形は、品種により異なっています。しかし、これは品種を特徴つけるためにはよいのですが、逆に特定の個体を同定するためには役に立ちません。なぜなら、個体による変異があまりにも多いからです。もちろん、参考にはなります。色々な形質を加味して決めなくてはならないと思います。例えば、花茎が長くなるのはニビウムといわれます。ニビウムでは、典型的なものは首が長くなり、とても可愛らしい丸い花を咲かせますが、ほとんどの優良な個体の花は大きくてニビウムらしくない(?)形で、花茎もさほど長くありません。確かに、花茎の長いものはニビウムに間違いありませんが、現地でも比較的短いものも多くあります。従って、花茎が短いからニビウムではないと言えないのです。また、リップ(ポーチ)に突起が出るのはアントンによく見られる特徴といえます。最近、遺伝子の話をよく聞かれると思いますが、近似種を遺伝子で分けることは現状の技術的なレベルではとうてい無理でしょう。唯一便りになるのは、個体の出所、採集地点です。しかし、これもいまでは全く信用できません。さらに、現在ではシブリングクロス等が盛んに行われています。今の所、決定的な手段はないと考える方がよいと思います。 
 さて、なぜこのような質問が出るかというと、形態的によく似たゴデ、リューコ、アントン、ニビウムが混在し、その区別が難しいからだと思います。 これらの品種は、マレ−半島中央部の比較的誓近い地域に分布しているため、確かにそれぞれの品種の起源には不祥なことが多くあるようです。RHSではゴデフロイエとニビウムを原種とし、リューコキラムはゴデの変種あるいはシノニム(同種異名)とし、アントンはゴデとニビウムの自然交雑種として人工的な交配品種グレイ(Greyi)として扱っています。 私は、専門的な分類学者ではありません。しかし、原種とその交配品種を多く比較することにより、原種の形質がどのように交配品種に影響を与えるかを考えてきました。その結果、原種としての交配における特徴が色々と解ってきたつもりでいます。また、交配の結果から、原種が語れるようになってきたとも思います。 それぞれの原種についても、勿論ワシントン条約が結ばれるずっと前のことですが、私は何千株もの品種を直輸入して、それぞれの基本的な花をたくさん見ました。そこで、ここにあるゴデ、リューコ、アントン、ニビウムについての私なりの仮説を立てています。勿論信用して頂く必要はありません。逆に、批判して頂いても結構です。これは私の個人的な意見であることを、くれぐれもご承知下さい。

niveum 典型的なタイプ。
小型で、可愛い丸い花を咲かせる。
niveum'Wichen'AM/AJOS
大形で、整形のニビウム優良個体。
ang thong 'Asahi' HCC/AJOS 
アントンの優良個体。

 まず、私は、基本的な原種としてニビウムとリューコキラムを考えています。ニビウムのスタミノードは黄色で花色は白、リューコキラムのスタミノードは原則的に緑(黄色もあるといわれている)で、花色は乳黄色と考えています。これらの間で自然交雑が起こったとして、便宜的にニビウムに似ているものがアントン、リューコキラムに似ているものがゴデフロィエ。自然で見られるアントンとゴデフロィエはほとんど区別できないほど似ています。 両者ともにスタミノードは黄色と緑、花色は白色と乳黄色を帯びるものがあります。これらは先に述べたようなリューコキラムとニビウムの交配によるものとしたら十分に理解できることです。

ang tong
アントンの中には開花時に乳黄色を帯びるものがある。
godefroyaeの普通個体 
ゴデフロィエの山採り株の多くは、アントンのそれと区別できない。
godefroyae 
ゴデフロィエには、模様のユニークな個体もよく見られる。

godefroyae 
花には、白色のものと乳黄色のものがある。
luecochilum'Moon Light'
濃色の優良個体。
luecochilum 'Casa Luna'
リューコキラムな優良個体には大型のものがよく見られる。

 この場を借りて、さらに主張したいことがあります。RHSなどでアントンをグレイとして扱うことです。たとえ、その起源がニビウムとゴデフロィエであるとしても、長い長い歴史の上で、その品種が維持されてきたと考える方に無理があると思います。例えば、ニビウムを母株にゴデフロィエの花粉がつきグレイが出来たとしましょう。その種子は、母株に近いところに落ちるでしょう。そして生長したグレイは、母株やその周りにあるニビウムと交配されないのでしょうか。交配されると、それはもはやグレイではなく、グレイとニビウムの交配品種ミスティック・アイルになるはずですし、これらがさらにニビウムやグレイと交配されるとまた異なった品種になるはずです。品種というのはこのような繰り返しで、安定した品種が確定するのではないでしょうか。自然が作り上げた品種を、たんなる原種交配で置き換えるのは問題が大きいと思います。そのような意味で、いま出回っているオーキッド・ゾーン社のグレイ・アルバムはアントン・アルバムとすべきだと思います。グレイ・アルバムならニビウム・アルバムとゴデフロィエ・アルバムの交配によって作られなければなりませんし、当時彼らはゴデフロィエ・アルバムを所有していませんでしたから。

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