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カフェインによるナメクジとカタツムリの防除
高濃度のカフェインはナメクジやカタツムリに神経毒として働く
 ナメクジやカタツムリの防御に用いる市販の薬剤はメタアルデヒドかメチオカーブで、これらはUSAでは食用作物には使用が許されていない。この研究では、カフェインを葉面散布や肥料に混ぜることによって、ナメクジやカタツムリを駆除することができることを発見した。カフェインは自然の化合物として、アメリカ食物局(US Food) と 薬物管理局(Drug Administration)により一般的に安全な自然化合物として認定されているので、これを散布しても自然を汚染することを心配する必要がない。
 ハワイで鉢植えにされた植物にたかっている害虫を対象にその効き目を調べたところ、かなり大きなネメクジでも1〜2%のカフェインを噴霧すると殺すことができた。
 ナメクジをつけたベロニカの一種(Veronicella cubensis)を土中に埋めて、2%のカフェイン溶液でその土を湿らせると、3.5時間後にはわずか25%のナメクジしか土中に残っていなかった。さらに、48時間後には全てのナメクジが土中から逃げ出し、92%は死滅した。
 白菜をカフェイン溶液に浸した後、乾燥させ、これを2Lのプラスチック容器に入れた(図1)。比較実験では、0.01、0.1、0.5、2%のカフェイン溶液で処理したナメクジの一群は、4日後の観察の結果、白菜を食べる量が、それぞれ、9、19、29、39%の減少を示した。一方、カフェインを上記と同じ濃度の溶液で処理した白菜の消費量は、4日後では、それぞれ、11、62、77、64%も減少した。しかし、この消費量を、カフェインで処理した白菜をえさにした場合と処理していないふつうの白菜を食べさせた場合の消費量を比較したとき、実際の減少量はそれぞれ24、24、14、28%の減少であった。これは、ナメクジがカフェインの有無を容易に判断することができることを意味する。また、この意味では、ナメクジはカフェインの濃度がわずか0.01%でも認識し、葉を食べなくなることが解った。

 カタツムリについての実験では、ランに害を与えるカタツムリ、3mmほどの大きさだが成熟しているウスカワマイマイ(Zonitioides arboreus) 、を用いた。ペトリ皿にいろいろな濃度のカフェイン溶液を入れ、その中でカタツムリを顕微鏡で観察しながら解剖し、その心拍数を測定した(すごい、信じられない・・・田中)。0.01%のカフェインに処理したカタツムリの1時間後の心拍数は上昇したが、0.1、0.5、2%のカフェイン溶液で処理した場合には、その心拍数は減少した(2図a)。すなわち、0.1%では、24時間後には心拍は弱くイレギュラーになり、0.5と2%ではでは96時間後には死滅した(図2b)

 次に、ランを栽培している温室で効果を測定した。すなわち、カタツムリがいるランの鉢植えのコンポストにカフェインを投与した。濃度が1と2%のカフェインで処理すると、それぞれ、60%と95%が死滅した。さらに大がかりな実験により、2%のカフェイン溶液が効果的にカタツムリを駆除することができ、防除剤として用いられる通常濃度0.195%のメタアルデヒドよりも効果的であることが解った。防除剤の処理してから30日後、コンポストからカタツムリをさがすと、カフェインで処理した場合には5尾、メタアルデヒドでは35尾、そして比較実験として水で処理した場合には45尾が見いだされた。 
 カフェインは軟体動物(イカやタコ)や昆虫を用いて、イオンの運搬、また、神経や筋肉の生理的な機能を研究するのに用いられてきた。ところが、ナメクジやカタツムリでは、カフェインが毒性に働くことは注目に値する。今までカフェインは、害虫の防除剤として効果があるだろうと考えられていたが、対象としては昆虫だけであった。 
 カフェインがどのような機作でナメクジやカタツムリを殺すのかは解らない。軟体動物の研究では、カフェインで処理すると貯蔵されていたカルシウムイオンが放出され、アクションポテンシャルの時間が長くなることが解っている。柔らかい土の上で、比較的大きなナメクジを1と2%のカフェインを体に噴霧するともがき苦しみ、すぐに土の中に潜り込んだ数尾をのぞいて全て死滅した。
 カフェインは、農業において、ナメクジとカタツムリを駆除するのに有効と思われる。カフェインは水溶性で、この濃度ではドラセナ、アンスロウム、ヤシ、ランには影響を与えないが、シダやブロメリアド(アナナス)、レタスでは葉が黄化することがある。これは、溶液に混ぜた展着剤とカフェインとの混合に原因するものだろう。

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