• 春蘭の花色と斑柄
      植物の色素、斑柄は、既に備わった植物体内に於ける栄養素の消化と吸収に拠り
      形成されます。
      花色は、植物体内の酸度に大きく関わっています。
      影響を及ぼす源は、ラン菌根菌が植物体内に取込むアミノ酸の量と種類が関与します。

  • 赤花の発色管理
      「花物株の管理」:
      花物株の成長期には、栄養分と光合成の為の太陽光を十分に与えます。
      かつ、開花期には、栄養分を抑えます。
      4月から9月にかけての成長期には肥培管理に努めて肥料と水を与え
      十分に採光します。
      この時期に、多肥管理で適温と適湿で微生物を活性化し
      アミノ酸類の増生成を促し
      ラン菌根菌による植物体内に充分な養分を吸収させます。
      成長期後の花芽分化を経て花芽の充実期には、肥料を断ちます。
      9月頃から肥料を絶つ事になりますが、
      既に、用土には葉緑素の生成に十分な栄養分が残っています。
      そこで
      9月に入ったら肥料気のない用土に植え替えます。
      開花までの管理は
      葉緑素の生成要因である光合成を抑えるため、光線を遮り灌水を控え目にします。
      勿論肥料は与えません。
      「葉緑素」:
      植物体は総て葉緑素で構成されている生物です。
      葉緑素は、プロリン、ロイシン等のアミノ酸を光合成細胞葉緑体により、
      クロロフィル色素等の合成蓄積が行なわれます。
      これらの養分を運搬する水と温度、更に葉面よりの蒸発作用を促す、
      太陽光を与える事で光合成により葉緑素が生成されます。
      つまり、
      葉緑素を抑えるという事はこれらの事を念頭に置いて管理を行えば良い訳です。
      開花株の管理は
      適度な葉緑素の生成をどこで、どの程度に抑えるかが重要です。
      「赤花の管理」:
      赤花の色素はアントシアニン系色素と言われています。
      アントシアニン色素源は、アミノ酸のチロシン、フェニルアラニン等です。
      アントシアニンは、御存知の通り、
      酸性では赤く、アルカリ性では青く変色します。
      これは、理科の実験でお馴染みの酸度の判定に用いられています。
      ラン植物体は、弱酸性ですが、
      アントシアニン系アミノ酸を多量に取込んでも赤花は、咲きません。
      此処で言う、赤花の咲かせ方は、
      既に備わった、植物体の性質を、
      より効果的に発揮出来る手段を記載しています。
      しかし、山で採取時には、赤花が咲いていたが、
      鉢に取込むと青花しか咲かない場合には効果的です。
      赤花の開花管理は、
      花芽が土を切って出たらキャップをして遮光を行います。
      赤花系等の色花の多くは、
      発色管理をせずに明るい日照下で栽培すると濁った
      褐色系のくすんだ花が咲きます。
      これは、日照下での光線による多量の葉緑素の生成により、
      赤花等は、赤と緑の混合色として褐色に見える花になってしまいます。
      赤色色素(アントシアニン系色素)と葉緑素の色素の混合の結果です。
      従って、鮮明な赤色を発色させるには、
      赤色色素を際立たせ、葉緑素を抑える事になります。
      赤色色素は日照下での光線に関係なく形成されます。
      従って、蕾の部分を覆って光線を遮る事で葉緑素の生成を抑え、
      赤色色素を際立たせる事で澄んだ赤色の花を咲かせる事が出来ます。
      より、澄んだ赤色を望む場合は、花蕾が土を切って出る前から完全遮光処置を行います。
      少し、濁り見のある濃い赤色にしたい場合は、完全遮光より、キャップの裾を少し開けて
      用土からの反射光が入る様な調整で葉緑素の生成量を調整します。
      一例として
      万寿、東源の濃赤花系統は1月の初旬頃にキャップを取り、低温下で採光をとります。
      紅明、朱鷺の紅赤色系統は2月の上旬頃にキャップを取り、低温下で採光し、
      開花目標日より2〜3週間前に加温、湿の調整を行います。
      「朱金色花の管理」:
      朱金色の色素はカロチノイド色素と言われています。
      カロチノイドは赤、黄、紫など植物体内の色素で
      長い鎖状で、ニンジンのベータカロチンやトマトのリコピンが有名です。
      微生物が生成したカロチノイド源をラン菌根菌がラン植物体内に取込み生合成します。
      管理は、赤花の管理に準じますが、
      キャップの取り外しは、
      開花ぎりぎりまで行い、直前に太陽光を取り入れます。
      福の光、多摩の夕映等の朱金色系統の開花調整は目標の2〜3週間前に加温湿を行い、
      開花の1週間前にキャップを取り、更に加温、加湿を行い
      一気に開花させると良い花色が期待出来ます。
      此処で、誤解の無いように付け加えますが、
      培養土等にSF混合用土のアルカリ質の用土を用いる事で、
      植物体内もアルカリ性質になる事にはなりません。
      アルカリ質培養土は、ラン菌根菌を含む有効菌の繁殖環境改善に有効で、
      微生物の活性化により、アミノ酸を増繁殖する手段です。
      肥沃なアミノ酸をラン菌根菌が蘭植物体内に取込む事で、
      ラン植物体内で既に備わった性質に拠る生合成が行なわれ
      花色、斑柄等の本来備わっている性質をより効果的に発揮します。

    キャップについて:

      開花株を採光による光合成を抑える為、
      出来るだけ光から遠ざけて薄暗い場所で管理しますと、
      株全体(葉)が徒長してしまいますし、株そのものも弱ってしまいます。
      そこで、葉は採光し葉緑素を生成させ、
      花蕾だけを覆って遮光をするキャップが考案されました。
      キャップは、黒色の厚手の紙で筒を作り、光を透さない様に花蕾に被せます。
      この方法では、灌水の際に紙が水を含んで乾燥に時間が掛かる事で
      厳冬期に結露による凍結等の欠点となる事が有ります。
      そこで、取扱いが簡単なアルミホイルで筒を作り被せる方法が一般的です。
      赤花系は、
      12月下旬にキャップを外して、
      冬の弱い光でユックリ発色させます。
      花蕾は3ヶ月余りの長期間、遮光された為にひ弱なデリケートな状態に成っています。
      キャップを除去した際の環境変化に非常に敏感に成っています。
      急激な環境変化を控えて徐々に馴らさせる必要があります。
      そのまま2月迄は冷気に当てます。
      2月に入ったら開花調整を行います。
      開花調整用のワーデアンケース等が有ればその中で調整しますが、
      一般的には、暖房の無い部屋に入れ、湿度を高くして花茎を伸ばします。
      開花させたい2〜3週間前に加温、加湿し開花調整を行います。
      花茎の伸び上がった、濁りのない美しい色花の開花には、
      以上の事を目安にして、各位の作場環境で、より良い開花調整をして下さい。

  • 縞斑の発現方法(縞斑柄発現素質の場合)
      栽培環境、方法により縞斑が出たり出なかったり、
      自分の棚に入れた時は素晴らしい縞柄であった物が
      年々縞斑が出なくなり、覆輪斑に変化したり、ついには無地葉になってしまったり。等等
      柄物蘭栽培で一番悩ましい所ですし、それだけに逆に最良柄が出た時の喜びは格別です。
      銘品として登録された縞柄蘭も
      それなりの柄を発現させるのは苦労させられる事も希では有りません。
      写真や展示会で見た柄斑の銘品を購入しても同じ柄が出ずに
      「違う品か?」と落胆していると突然、素晴らしい縞柄が出現し安堵の胸を撫で下ろした経験が何度もあります。
      縞斑には一般に天冴え(新芽のうちから縞斑が出る)と
      後冴え(葉が伸び上がってから縞斑が鮮明になる)とが有ります。
      [天冴え]:
      天冴えで縞斑が出難い場合の私の発現方法です。
      蘭は単子葉植物です。
      生長点で分化した葉は、葉先に向かって送り出される様に細長く伸長します。
      葉の緑色は葉緑素を含んだ葉緑体で構成されていますが、
      葉の生長時に組織が突然変異等で葉緑素の形成機能を失った細胞が生じると
      葉緑素を形成しない葉肉組織が葉脈に沿って筋状に伸長します。
      その結果、
      その部分だけが脱色されて、葉全体から見ると白い斑模様として表現され
      斑柄と呼んでいます。
      この葉緑素の形成機能を失った細胞が生長点のどの部位に生じたかによって葉の
      斑模様が形成されます。
      生長点の外層部位に脱色細胞を生じた場合は覆輪系統の斑柄に伸長します。
      又、内層部位に脱色細胞が生じた場合は中透けや紺覆輪になり、
      内層部、或いは外層部位に葉緑体を含むものと含まない物とが混在した場合は
      散斑系統の斑柄を現します。
      この性質を継続する種類と突然発現する種類が有ります。
      一般に「肥料を多くすると斑柄が消える」と言われますが、
      天冴えの場合、葉を形成した後の多肥栽培には関係が有りません。
      むしろ、多肥栽培は葉緑素を含む葉の緑を濃くする事が出来るので脱色部位との
      コントラストが鮮明になり純白の斑柄がより鮮明に表現出来ます。
      斑柄の発現は、肥料ではなく元々備わった性質です。
      私は、多肥栽培を推奨します。
      山野で春蘭の採取をしますが
      縞斑のランを採取出来るのは南東斜面の陽が良く当たる比較的暖かい場所です。
      この事から、暖かい陽に当てることは有効の様ですが、
      直射光に当てると葉緑素の少ない葉はすぐ日焼けを起こし枯れてしまいます。
      従って、株から上を直接、陽に当てずに根の部分つまり鉢を暖めることで、
      培養土の微生物の活性化とラン菌根菌の活性化を促します。
      この手法は、生長点の葉の分化時に有効な様です。
      新芽の時期、天冴えの筈が縞斑が出ていない場合があります。
      この場合は新芽が伸びきる前に根元から欠き取ります。
      これは、
      バルブの周囲を取巻く次の生長点から新しい葉を伸長させる為です。
      すぐ違う根元から新しい芽が出てきます。
      この様な場合2度目の新子は素晴らしい縞斑が出る事もありますが、希に3度目になることも有ります。
      天に祈るのみ!!3度目が駄目の場合はそれも欠き取り、来年に期待しましょう。
      運が良ければ縞斑が出ますが、確率的には難しいです。
      何度か試みて、諦めて庭に植えて忘れた頃に素晴らしい縞斑が発現した例も有ります。
      蘭は「辛抱草」と言われる由縁かも知れません。
      天冴えは、花にも其の芸を反映させます。
      [後冴え]:
      後冴えは、出芽の際、葉の脱色部分が淡緑色を帯びて出ます。
      新芽が展開する頃、葉に濃い緑とやや淡い緑の部分が出来ます。
      葉緑素の度合いが不鮮明です。
      やや淡い部分がやがて黄色味に変わり日が経つに連れてやがて白味を帯びてきます。
      淡緑部が変化するには種類によって違います。
      芽が伸び切り、葉が展開する頃に変化し始めるものと、1年後、2年後になるものも有ります。
      葉の大部分を黄色に染めると素晴らしい葉芸です。
      この淡緑色の部分の細胞はやはり葉緑体や葉緑素を完全に形成する事が出来ません。
      後冴えの大半は黄色色素を含んでいます。
      この色素は採光によって鮮やかな黄色味を帯びてきます。
      この場合は、
      黄色味をより濃くし、緑色部も濃くするために、
      多肥栽培が良い結果を得ます。
      山野の自生地では、
      高地の北斜面で多く採取されます。
      一般に後冴えは花に斑柄を反映させません。

  • 極黄虎斑、蛇皮発現方法
      白色に出る、虎斑、蛇皮は天冴えです。
      強い太陽光に当てると葉痛みを起こします。
      この方法は極黄色に出る、虎斑、蛇皮等、後冴えの発現方法です。
      虎斑や蛇皮の発現素質のあるランはその置き場所によってデリケートに差異が出るようです。
      新芽が2p位に伸び出した頃から梅雨明けの真夏の日迄が虎斑や蛇皮の発現時期です。
      土庭の午前中陽が良く当たる場所に、
      ビニール無し地で雨水や横風が直接当たらない囲いを作ります。
      完全な密閉ではなく、周囲の裾を5cm位は上げておきます。
      葉の最上部から10〜20cmの空間が必要です。
      その中に鉢掛けに置いた目的の鉢を置きます。
      午前中はビニール無し地を通した太陽光に充分当てます。
      十分に湿度を保った用土を太陽光で蒸らして湿度と温度を上げ
      一気に葉の伸長を促すのです。
      長時間の蒸らしは根や葉を傷めます。
      午後早めに蒸らし用の囲いから出して、
      ヨシズや寒冷紗で遮光した通風の良い環境に安置し安静にします。
      通風で葉がなびく様では風が強すぎます。
      葉が揺れない程度の通風が最適です。
      午前中の太陽の直射で表土の水分はあらかた乾いてしまいます。
      日没時には充分灌水してやります。
      これは、水分の補給と同時に鉢中の空気を新陳代謝して、根に酸素を送り込む目的で行います。
      又、充分な湿度を保つためにも必要です。
      これの繰り返しで、10日前後過ぎると、そろそろ効果が出て来ます。
      株元から葉の中程に、微かに葉緑素が抜けた様な部分が見られます。
      日が経つにつれて、その部分が立派な虎斑として発現してきます。
      尚、蒸らし用囲いが土面に設置できないベランダ等での環境では、
      囲いの中に高さ5cm位の容器に荒砂利を敷き水を張りその上に鉢掛けを置くと良いでしょう。
      鉢周囲の湿度を高くする工夫が必要です。

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