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セルレアの系譜とシンクエンテナリオ
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C. walkeriana tipo 'Cinquentenario'

”The World of C.walkeriana & Hirookas Collection” 誌に
掲載した記事から(一部加筆修正)
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<セルレアの系譜>

セルレアの歴史は(チポと異なり、)交配の歴史と言えます。
1960年代のセルレアは、4個体しか知られていませんでした。
その個体とは、「パトリシア(Patricia)」、「ミランダ(Miranda)」、
「ディック(Dick)」、「エサルク(Esalq)」です。

セルレア同士の交配は、シーザー・ウェンゼル氏(Cesar Wenzel)の父親の
エバルド氏(Evaldo Wenzel)氏が行なったものが最初かも知れません。
エバルド氏は友人のディック氏から手に入れたセルレア株に、
エサルク大学のブリーガー博士(Dr. Brieger)のセルレアの花粉を1973年4月に交配し、
翌1974年4月に播種し「Wenzel 427」の交配番号を付けました。

この交配の中から最初に咲いたのが「ピラカンジュバ(Piracanjuba)」です。
1979年5月のゴイアス州ピラカンジュバ市での最初の
蘭展に出品された記念にこの個体名が付けられました。
この交配の苗を10株程買ったエドュアルド氏(Eduardo)の中から
咲いたセルレアが、サン・カルロスの蘭展で賞を獲り、
エドワルド(Eduardo =Edward)と呼ばれる様になりました。
しかし彼は2年後に娘の名前のギルダ・マリア(Gilda Maria)に
変えてしまいました。この結果二つの名前を持つようになりました。

一方、ウェンゼル氏の蘭園でも良個体が咲き、
ウェンゼル・サン(Wenzel Son)と名付けられました。
この個体はエドワルドにとても良く似ていて、殆ど判別が付かない程でした。
シーザー氏によるとフラスコの中で同一個体が
分割された可能性があるとのことでした。

「Wenzel 427」を交配して10年後、エバルド氏がブリーガー博士に
花粉に使った株の入手先を聞いた所、
マリオ・ミランダ氏(Mario Miranda)から入手したと答えました。
その後ディック氏にも同じ事を聞くと、
マリオ・ミランダ氏からと同じ答えが返って来ました。

ミランダは、1967年にミナス・ジェライス州イタジュバ(Itajuba)で
発見されたと言われています。
(当時のブラジルでは、貴重な株を手に入れると、
新たな所有者が新しい名前を付けることが多かった様です。
古くからある銘品に異名同個体が多いのはこの理由によるものと思われます。)

エバルド氏はとてもビックリし、自身で嫌っていた
自家受粉(セルフクロス)を行ってしまったことに気付きました。
同じ個体と知っていれば行わなかったこの交配が、
セルレアの歴史の源流を作る事になったのは偶然の悪戯かも知れません。

この「Wenzel 427」の交配から多くの有名個体が生み出されました。
Edward、Wenzel Son、Dona Vilma、Anier Carnir,
Carmen等や、Monte Azul、Pedra Azul、Azul Perfecta等の
日本で出回っているセルレアの殆どがこの血筋なのです。(系統図参照)

1960年代のセルレア4個体の内3個体が同一個体でしたが、
残りの1個体はパトリシア(Patricia)です。
この個体は1960年頃にマリオ・アフーダ・メンデス氏(Mario Arruda Mendes)が、
カンピナ・ベルデ(Campina Verde, Minas Gerais)近くの農場の木に付いていた
1,000本程の苗から持ち帰った52本の中から咲いたものです。

この個体は、最初は友人のオラステス・ロボダ氏(Orestes Loboda)に
分けた記念にマリオ・アフーダ・メンデス
(Mario Arruda Mendes)と名付けられましたが、
その後ロボダ氏に孫娘が出来、マリオ氏の許しを得てパトリシアと変えたのでした。
このパトリシア発見の逸話は、エイトール・グロイデン氏(Heitor Gloeden)が彼の著書
「a Joia da Bruxa」の中で書いています。(和訳がACWJ No.3に掲載されています。)

1980年10月21日にパトリシアとピラカンジュバがエキラボ社(Equilab)で交配され、
「S 74」の交配番号が付けられました。この交配からは、
チポとセルレアが咲き、1990年頃にセルレアの良個体同士で交配が行われました。
これが交配番号「S 392」です。

1992年4月レオナルド・ロドリゲス氏(Leonardo Rodrigeus)は「S 392」の
フラスコ出しの苗をエキラボ社から(多数)入手しました。
この交配からは「S 74」と同様にチポとセルレアが咲きました。
(「Wenzel 427」の他の子供たち同士の交配からチポが咲かない事から、
パトリシアがチポとセルレア両方の遺伝子を持っていると思われます。

1999年、ベロオリゾンテ蘭協会の第50回蘭展で、
「S 392」から咲いた12cmの大輪チポが賞を獲り、
シンクエンテナリオ(Cinquentenario:50周年記念の意味)と名付けられました。

2002年にブラジルを訪れた筆者がこの個体と出会い、
門外不出の株を日本に持ち帰ることとなりました。
翌2003年にセルレアの遺伝子を持ったチポの入賞花2個体と
シンクエンテナリオを交配(「ST-57」、「ST-61」)したところ、
1割弱にセルレアが咲きました。
この子供たちの多くが、濃色大輪のセルレアと大輪チポとして
AJOSやACWJでAMに入賞しています。

一方ブラジルでは、2003年頃にアンドレ・カバジーニ氏(Andre Cavasini)が
シンクエンテナリオの兄弟のチポ(No.3 LR)にシンクエンテナリオの
花粉の提供を受けた交配「A-15」を行い、
その中から極整形のマグニフィカット(Magnificat)が2008年の
リオ・クラロ蘭展に出品され話題になりました。

1輪咲き(NS:10cm)のため審査対象外でしたが、2輪ならFCCは間違いのない、
理想形に限りなく近い整形な個体でした。
その後これを親にした交配が行われ、更なる花形の改良が進められています。
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C. walkeriana f.coerulea 'Magnificat’
(2018.2.1)