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ペローラの系譜
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C. walkeriana f.semi-alba 'Tokyo No.1'

”The World of C.walkeriana & Hirookas Collection” 誌に
掲載した記事から(一部加筆修正)
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<ペローラの系譜>

ペローラの歴史は、ハワイ抜きでは語れません。

1990年C. walkeriana fma. semi-alba 'Tokyo No.1'がJOGA審査で
シルバーメダル(80pts.)に入賞し話題になりました。
それまでのsemi-albaでは、'Sancha'、'Konan'や'Spa'等の
小輪で野性味のある花しかなかったからです。

早速セルフ・クロスやメリクロンが作られ、一世を風靡することになるのですが、
余りにもエポックメイキングな花だったので、疑惑の声も聞こえるようになりました。
「ハワイ系は怪しい」「ロディゲシーの血が入っているらしい」
「アメリカ生まれの原種は交配種と同じだ」等々、
訳の分からない事さえ言われる始末でした。

原種の交配種疑惑の多くは、「その種としては余りにも良過ぎる
花なので疑わしい」と言った形の良さに囚われた観念的な意見で、
種の特徴を的確に判断したものではないと思われます。

何度かブラジル渡航をしていると色々な情報に接する事があります。
そんな中2008年のSOBH蘭展でのシーザー・ウェンゼル氏の講演で、
'Tokyo No.1'の出生に関する記録が発表されました。
それは日系のジョージ・スズキ氏の交配記録に、
その親と思われる交配が記録されていたと言うものでした。
50席程の会場は立ち見まで出る中、ディスプレーで
記録帳の一部が映し出されました。

452 C. walkeriana 'Meiry' x C. walkeriana semi-alba
(Nem Sempre) Moacir BH 3-5-87

メイレとネム・センプレをベロ・オリゾンテのモアシール氏が交配し、
1987年5月3日に鞘を受け取ったか、あるいは種を播いたと言うものです。

スズキ氏がハワイ大学でメリクロン等の勉強をした縁で、
このフラスコをハワイのイワナガ氏へ送り、カワモト・オーキッドを経て
苗が日本に渡り、咲いたのが'Tokyo No.1'だと言う解説でした。

その後、H&R Nurseriesのハリー(Harry Y. Akagi)氏に、
このフラスコと苗の調査をお願いした結果、フラスコがハワイに届いたのは、
1976〜77年に間違いないと関係者が記憶していました。
JOGAの入賞が1990年ですから1987〜88年のこのフラスコは
年数的にあり得ないとの結論になりました。

何故ならフラスコ出しから開花まで4〜5年掛るからです。
これ以降は推論になりますが、当時ワルケリアナのフラスコを作って
ハワイに送れるのは、ジョージ・スズキ氏だけでした。
また、'Tokyo No.1'や'Puanani'等の花の特徴(花サイズ、コラムに
刺す紫紅色のパターン等)から、片親にネム・センプレ(NS:10.5cm、PW:4.2cm)が
使われているのは間違いないと思われます。

ハワイ系のセミアルバ(ペローラ)同士の交配やセルフクロスから
アルベッセンスが一定量(数%)出ることから、もうひとつの片親は
アルベッセンスかも知れませんが、個体名は不明です。
ジョージ・スズキ氏が記録帳を作る前に、
フラスコがハワイに送られた可能性が高いと言う事です。

ブラジルでは、'Meire'×'Nem Sempre'の再交配が行われています。
2012年から咲き始めた様なので、開花例が集まれば
ひとつの可能性に結論が出るかも知れません。
ハワイ系のペローラを使った交配から多くの優秀花が作出され、
日本人好みの色彩とも合いなって多くの愛好家を虜にしました。
ペタルやセパルに乗る紫紅色のパターンもそれ迄に無かったタイプが出たり、
年により色の出方が変わったりで、話題には事欠きませんでした。

ACWJではこの新しいパターンを分類し、
2010年にペローラのサブフォルマを策定しています。

2013年のブラジル渡航で、現地の愛好家から何度も同じ質問を受けました。
「ハワイのペローラはヒーブリッドでは無いのか?」ヒーブリッドとは
ハイブリッド(交配種)のポルトガル語読みです。

今度はブラジルで疑惑の対象になっているのです。
ペローラ系が日本やハワイから逆輸入され、盛んに交配も行われています。
ハワイではメリクロンをコルヒチン処理し、変異体(4倍体等)を意図的に作出しています。
セレクトされた変異体は、どれも花が大きく、弁質が厚く、コラムも大きく、
バルブも大きく変異して、もはや原種の面影は欠片もありません。

ナトラルを長年見続けて来た人達に「交配種」に見えるのは当然かも知れません。
現地の人に交配種では無い事を説明しても、
皆さん半分納得できない様子でした。
蓼食う虫も好き好きなので敢えて否定はしませんが、
時代と共に淘汰されて行くのかも知れません。

(ペローラの系譜の詳しい内容は、ACWJ会誌No.10とNo.11に連載しています。)
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C. walkeriana perola 'Nem Sempre'
(2018.2.1)